大勝負に向けて【大和餃子プロジェクト07】

ブログ記事

【前回まで】

とびきりおいしい餃子を届けたい。そんな気持ちで始めたこのプロジェクト(01)。いきなり具材のミンチ肉が理想の品質にならず、悩んだ時に出合った「奈良らしさ」というテーマ(02)。具材の味に奈良らしいアクセントをつける「大和まな」。そうして探せば次々見つかる「奈良の特産品」(03)。さらに「結崎ネブカ」を加え、味の方向性が決まると共に、ミンチを自社挽きに変更。手間も費用も必要ですが、餃子がもう一段レベルアップ!(04) 餃子の皮で悩むも、奈良の本物の職人が作った醤油に出合うことで、一歩前進(05)餃子の皮は「吉野葛」で生まれ変わった。さあ、これからという時に新たな問題発生。(06

大仏と鹿だけじゃない

長年、私が磨き上げてきた餃子は、数々の奈良県産の素材で、一味も二味も違う餃子に変身したと思っていました。

この餃子は美味しい、という単純な自信があります。それに、自分自身でも気づかなかった地元・奈良の意外な魅力。

日本中、誰に聞いても「大仏と鹿」のイメージが先行する奈良ですが、私は声を大にして「こんなにうまいもんがあるんや」と言いたい気分でした。

同時に、どうしようもない問題が明らかになってきました。

凍らす、ということ

このまま店で販売することは決めました。しかし、せっかく奈良を前面に押し出した餃子です。お店で提供できる範囲はごく一部、できれば奈良以外の地域にも届けたいと思いました。

その為には、冷凍しないといけません。皆さんは家庭用の冷凍庫をイメージされると思いますが、業務用とは根本的な業務が違うのです。

家庭用の冷凍庫(冷蔵庫)の主な業務は、もともと凍っているものをそのまま保つことです。もちろん、お肉を凍らせたりもしますが「保管」の意味合いが強いです。緩慢冷凍ともいわれます。

対して業務用冷凍庫は、文字通り「冷凍」することが目的です。出来るだけ早く、速やかに凍らせる必要があるのです。それにはこんなメカニズムがあります。

ドリップ現象

食品は、多かれ少なかれ水分を含んでいます。家庭用の冷蔵庫のようにゆっくりと凍らすと、その水分が大きな氷の結晶を作り、食品の細胞を突き破ってしまいます。これをドリップ現象と呼ぶそうです。

なんだか怖い「食品の細胞を突き破る」という現象ですが、これが起きると食品の味や品質、旨みが低下します。一言で言えばまずくなる。皆さんも経験があるかも知れませんが、解凍するとべっちゃりとなってしまうのです。これでは「商品」とは呼べません。

もちろん、私たちもプロなので、これまでも冷凍設備はそれなりに整えてきたつもりです。ただ、この餃子を大量生産するとなると、巨大な冷凍設備が必要となるのです。

売り物にできる大量の餃子を急速に凍らせる業務用冷凍庫がいくらするかご存知でしょうか?

実は冷凍庫を始め必要な機材を全部揃えると家が一軒建ってしまうような金額になってしますのです。正直青くなりました。

もうこの辺で?

またしも「進むか進まないか」の問題です。しかも、今度はちょっと金額が大きすぎます。

ちょっと想像してもらうと分かって頂けると思いますが、町の中華屋さんがいきなり家一軒分の投資を行うわけです。それも、どれだけ需要があるか読めない「餃子」の「美味しさを保つ」という目的の為だけです。

早朝から深夜まで中華のことを考える「中華バカ」です。汗ならいくらでもかく覚悟があります。しかし、リアルな話、失敗すると取り返しがつかなくなるかも知れません。

「もうこの辺でいいんじゃないか」と思いました。今でも、じゅうぶんいいお客様には恵まれている。それ以上を望まなくてもいいのではないかと。

「それでも……」と私の心がしつこく反論してきます。

「それでも、この餃子をもっと多くの心に届けたい」

それは、この道一筋でやってきた私の一つの夢だったのです。

援護射撃はやはり奈良

「困ったら奈良」がこの所の私の合言葉です。悩んでいても仕方がないので、私はまた、奈良を行脚し始めました。

奈良は本当にいいところです。夏は少々蒸し暑いですが、冬の寒さは厳しくなく、大きな自然災害に襲われることもほとんどありません。何よりも、自然が美しい。

もちろん「奈良公園」は世界に誇る世界遺産を含む一大景勝地です。でも、それだけじゃない。豊かな自然に育まれた「まほろば」なのです。その意味は「素晴らしい場所」「住みやすい場所」というものです。私はこのまほろばを信じていました。

するとやはり見つかるのです。最後のキーワードは、餃子のタレ。奈良を渡り歩いた私は、吉野の奥で見つけてしまいました。

私はその「ポン酢」を試食した瞬間、「これだ!」という確信が湧きました。

そして、最後の決断が待っていました。

(つづく)