ミンチは難しい
「奈良発の美味しい餃子をつくる」最初にそう思ったものの、実際に取り掛かってみると、さっそく難題に引っかかってしまいました。
餃子の具の核となるミンチ肉の品質向上には、自社で肉を挽くことが必要だと分かりました。しかし、機械や作業スペース、人員確保、コストの問題……こういった問題をクリアしなければ、たとえ試作品ができたとしてもお客様に提供できず、ただの自己満足に終わってしまいます。それではプロとして失格。
見落としていたテーマ
しかし、肉の品質で悩んでいた私は、あることを忘れていました。そう「奈良発」というテーマです。基本から考えようとするするあまり、大事な部分を見落としていました。
「いったん、ミンチ肉問題は後回しにして、奈良発の発想で餃子を考えてみる」そう思って、ちょっと肩の力を抜きました。
他の具材、例えばキャベツなどは安定的なクオリティを確保できていました。しかし、餃子の具はキャベツだけではありません。
一般的には、白菜、ニラ、長ネギ、ニンニク、ショウガなども使われています。変わり種の餃子もありますが、今回目指すのは、単純なインパクトだけではない、飽きの来ない味。
そこで私は、餃子に合う野菜を探して、奈良県内をあちこち巡るようになりました。
いい案が出ない時は足で稼ぐ
すると拍子抜けするくらい、たくさんの野菜に出合いました。例えば、近隣の広陵町や田原本町では、茄子が特産です。この茄子を求めて、全国から引き合いがあるとか。当店でもメニューに使用していますが、足元にも素晴らしい素材がゴロゴロしていたのです。
奈良は面積における森林率が77%と全国5位と、県内全域が農業には必ずしも適した土地ではありません。。しかし、その少ない耕地面積を工夫して色んな野菜が作られていました。
ちなみに茄子は全国17位、その他、柿が2位、イチゴが12位、ホウレンソウなども21位と健闘しています。小菊などの花も全国2位の出荷を誇ります。
(ちなみに茄子は、奈良県のホームページでも「知ってますか?”ナスは奈良の特産品”」というタイトルでPRされています>公式ページ)
最初の出会いは奈良の伝統野菜
さて、様々な野菜を探し回り、最初にこれだと思ったのは「大和まな」でした。
まなは、アブラナ科の野菜で、小松菜やシロナなどと同じ仲間です。漬物にすることが多く「漬け菜」とも呼ばれます。
こういった「漬け菜」の仲間の中でも特に「大和まな」は古い品種で、奈良では古くから栽培されていました。一説によれば、古事記に記載のある「菘菜(あおな)」をルーツにしているとも。調べてみると1533年には、きちんと文献に記述が残っていました。
かつては、油を取るために栽培されていましたが、とにかく美味しい野菜。見た目よりも味だけで、奈良では伝統的に栽培されてきたようです。
冒頭の写真のように葉は大根に似た切れ込みがあり、濃緑食。食感は柔らかく、青臭さが無くて甘みに富んでいる。奈良盆地や宇陀市、五條市などで生産されています。
私はさっそく取り寄せて、餃子に加えてみました。
前に進むしかない
「美味しい」
劇的な変化とは言えないかも知れません。しかし、実際に餃子が美味しくなっている――。
長年、餃子づくりに打ち込んできた私には、この少しの変化で、新しい世界が開けたように思えました。
また、地元には食材がないのではなく、ただ、真剣に探さなかっただけなんだと気づかされました。
それでもまだ、ミンチ肉の問題が残っています。このまま、野菜を探し続けても、美味しい餃子はできるかもしれない。だけど、肉の問題を棚上げしていいものだろうか。
しかし、「大和まな」できっかけはつかめました。
先に進むしかない、そう思って明るい気持ちになってなっていました。
(店頭にて。どんな時も笑顔で。つづく)