餃子の皮を変身させる吉野特産のあれ【大和餃子プロジェクト06】

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【前回まで】

とびきりおいしい餃子を届けたい。そんな気持ちで始めたこのプロジェクト(01)。いきなり具材のミンチ肉が理想の品質にならず、悩んだ時に出合った「奈良らしさ」というテーマ(02)。具材の味に奈良らしいアクセントをつける「大和まな」。そうして探せば次々見つかる「奈良の特産品」(03)。さらに「結崎ネブカ」を加え、味の方向性が決まると共に、ミンチを自社挽きに変更。手間も費用も必要ですが、餃子がもう一段レベルアップ!(04) 餃子の皮で悩むも、奈良の本物の職人が作った醤油に出合うことで、一歩前進(05

理想の餃子の皮を求めて

その日も、私は、専門業者から仕入れた餃子の皮が時間が経つと固くなってしまうという欠点に悩んでいました。新しい餃子を目指して改良を続けた結果、

  • 劣化を抑えた理想の比率の新鮮な自社挽きミンチ
  • 「大和まな」「結崎ネブカ」による奈良らしい美味しさ
  • 醤油職人の手による重ね仕込み醤油で味に深みをプラス

と、いうカードが私の手の中にあるだけに、どうしてもこの欠点を克服してきちんとした「役」を作りたい。これはもう、一つの「勝負」だと思っていました。

結論は、自社生産。

勝負に勝つには、やはり自社生産しかない。結論は、はっきりしていました。あとはやるかやらないだけ。でも、やらないという選択肢は事実上、私の中にはなかったのです。

中華一筋30年有余年、来る日も来る日も調理場で中華料理と真剣に向き合ってきました。たくさんの挫折もありましたし、苦しい時も多かったです。しかし、それでも基本は前進し続けてきたつもりです。やるかやらないか迷ったらとりあえずやってみる。結局、最初から悩む必要はなかったのかも知れません。

私はさっそく、自社での餃子の皮作りをスタートさせました。試作は行っていたので、レシピについてはめぼしはついていました。仕事は増えましたが、品質管理という面では、格段に安定した……と、思っていたのです。 それでも、問題はやってきました。一つ回答すると、次の問題が現れる。まるで禅問答のようです。

破れやすい

餃子の皮は前にも書きましたが、シンプルな要素で構成されています。

基本的には、小麦粉・塩・でん粉・水などです。作ろうと思えば誰でも作れますが、私は長年の経験で、その理想の配合は知っていました。ただ、中華料理店としてはその状態のいいものを「作り続ける」ことが不可欠でした。

最初、仕入れていたのは、この「続ける」部分が難しかったからです。商品としてご提供するからには、品質にばらつきがあってはいけません。

「今日の餃子は皮が厚いなぁ」「今日のはなかなかいいね」「昨日と比べるとちょっと皮が薄いね」では、商売になりません。

自社生産で作った皮は自信のもてるものでしたが、こんな問題がありました。

「破れやすい」

添加物を抑えた自社生産の皮は、そういう性質も持っていました。これはちょっとした難問でした。

じゃあ奈良だ

これまでの私ならここで立ち止まっていたかもしれません。しかし、このプロジェクトを通じて、一つの解決方法を知っていました。 つまり「困ったら地元の食材を探す」です。 奈良と言えば、奈良市と並んで有名な吉野地方があります。

吉野地方は千本桜で有名で、世界遺産にも登録されています。(吉野山観光協会HP) この吉野の特産が、吉野葛です。

吉野葛は「その風味、透明感、粘りは、最高級のでん粉」と称されている歴史ある食材で、私も名前はずっと知っていました。 これを餃子の皮に応用したらどうなるか。さっそく、仕入れてみました。

独特の食感に 一言で言えば、オリジナルの皮は「変身」しました。破れやすいという欠点も解消されたのはもちろん、滑らかさ、粒子の細かさが増し、舌触りが劇的に良くなりました。 満足のいく製品を作っていたつもりでしたが、さらに先へ進めたような感じです。焼けばパリッと香ばしく、水餃子にすればツルンとした喉越し……これで皮は完成しました。

具・皮・調味料……これが揃ったので、ついに餃子は完成が見えてきました。何度も試食し、手ごたえも感じました。

ところが、最後の最後に最大級の難問が待っていました。 この餃子を「美味しいまま届けることが出来ない」のです。そのことは薄々気づいていましたが、ついに正面から向き合うことになってしまったのです。

(つづく)